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20228/08
お知らせ 環境計測

気温ラマンライダー用の多波長分光検出器を開発

―気温・水蒸気量をいつでも安定に同時計測し、線状降水帯などの豪雨予測への貢献を期待―

本開発は、京都大学生存圏研究所と英弘精機株式会社の共同研究の成果です。

 

近年、全国各地で水災害の激甚化が深刻な問題となっており、気象予報精度をさらに向上できれば、被害低減にもつながり得ることが期待されます。大気境界層※1における気温・水蒸気量の鉛直分布の高頻度・高精度の観測は、水災害を引き起こす局地的な降水過程の理解や、気象予報精度の改善に役立ちます。光を用いたリモートセンシング手法の一つであるラマンライダー※2は、光源波長からシフトした波長帯に現れる空気分子からの微弱なラマン散乱光※3を分光計測することで、高度ごとの気温と水蒸気量の情報を得ることができます。気温は、温度により形状が変化する純回転ラマンスペクトル※3の計測から求めますが、実用性の高い多波長検出法ではスペクトルの中心に現れる強い弾性散乱光※4(レーザー波長と同じ波長に現れる散乱光)の除去が課題となっていました。

このたび、京都大学生存圏研究所の矢吹特任准教授の研究グループ(以下、京都大学)と英弘精機株式会社(社長 長谷川壽一)(以下、英弘精機)は、深紫外波長※5のレーザー光を用いて気温の高度分布を計測するラマンライダー用の迷光※6の少ない多波長分光検出器を共同開発しました。先行して開発された水蒸気量の高度分布を計測するラマンライダーに追加することで、気温・水蒸気量を昼夜問わず安定に同時計測することが可能となり、線状降水帯※7や局所的な豪雨などの予測精度向上に寄与できると期待されます。

 

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※1大気境界層:地上から高度1~2kmまでの地表近くに位置する層で、地表付近の熱や水蒸気、大気の運動量を効率よく鉛直輸送する領域です。

※2ラマンライダー:大気中にレーザーを照射し、大気分子によって散乱されたラマン散乱光※3を分光計測する装置です。レーザーを照射してから受信するまでの時間から距離を、散乱強度から各大気分子の濃度に関連した情報を得ることができます。

※3ラマン散乱光:光と分子の相互作用のうち、照射した光に対して波長の異なる散乱光(非弾性散乱の一部)です。ラマン散乱光は、入射光より波長が長いストークス散乱光と入射光より波長が短いアンチストークス散乱光に分けられます。ラマンライダーでは、分子の種類ごとに散乱波長のシフト幅が大きく異なる振動ラマン散乱光を水蒸気量の計測に、温度により波長のシフト幅がわずかに異なる回転ラマン散乱光を気温の計測に用います。

※4弾性散乱光: 入射光と同じ波長で散乱される光で、大気中では空気分子によるレイリー散乱やエアロゾルによるミー散乱に対応します。ラマン散乱光に比べて、数桁以上大きな散乱強度を示します。

※5 深紫外波長: 波長100nm~280nmの紫外光で、太陽光に含まれる深紫外波長の光は成層圏に存在するオゾン層で吸収されて地上にはほとんど到達しないため、ソーラーブラインド波長とも呼ばれています。光を用いるライダーでは太陽光が観測の妨げとなりやすいですが、ソーラーブランド波長を用いるライダーは日中の太陽光の影響を受けにくくなります。

※6 迷光: 光学機器内部などで発生する信号光以外の不必要な散乱光をさします。ラマンライダーでは、ラマン散乱光よりも強度が数桁大きい弾性散乱光を可能な限り除去することが重要になります。

※7線状降水帯:次々と発生する発達した雨雲が連なり、長時間にわたって停滞することで大雨を降らせる現象。大雨により河川の氾濫等の原因となることから、より早期の予測が求められています。

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